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気が付くとやってしまっていた。
 
 
かかとにへこむような感触を覚えたので、あばら骨が折れたのかもしれない。
彼女の小さく、搾り出すようなうめき声は次第に醜く濁った叫びに変わった。
 
 
 
剥げたアスファルトから覗く黒ずんだ砂利のような声が部屋中を巡るので、
僕はいつだったか、中原街道沿いの高架橋下に倒れこんだ時に
赤土にまみれた看板、ディーゼルの排気ガス、果てしなく残響するホワイトノイズの中で
こんな世界は嘘だと思ったことを思い出した。
 
 
 
彼女は泣き出していた。
とめどなく溢れる痛みと、僕に胸を踏み潰された事実がそんなに彼女の感情を揺らしているのだろうか?
そう思うと僕は大変なことをした気がしたので、大丈夫か、ごめんね、ごめんね、と言い
汚い土手のように変色している胸をさすった。
 
 
すると彼女は自分の痛みに夢中で、僕の優しさに対し何の興味も示さなかったので
僕は、薄目を開けて僕の手を見つめる彼女の片眼にひざを入れた。
黄色がかった透明な液体が壁を反射し、泥のような血と仲良く床に数滴、それはしたたった。
今度はすりガラスを引っかいたような声を、大そうなボリュームで執拗に上げ始めるので
ホラー漫画か何かに出てきそうだなあとか、彼女はサンプラーか何かじゃなかろうかとか、
少し吹き出してしまいながら携帯で救急車を呼んだ。
 
 
 
ホテルの入り口前で鳴る甲高いサイレンの音が、夜の街中にそびえるコンクリートに乱反射するので、
僕は、何だかもう全てがどうでもよくなった。





   





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